転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
「どうして、一緒に来るんですか? エドアルト様が来ても……」
「十年前――俺は誘拐されたことがある」

 エドアルトの胸に背中を預けているから、彼の表情はわからない。けれど、彼の声は重苦しくて、今から口にしようとしているのは、彼にとって重荷なのだと伝わってくるようだった。

「俺を誘拐したのは、隣国の王族だった。俺を誘拐し、人質として父との交渉に望もうとしていたらしい――当時、国境をまたがる地域で鉱山が発見されたんだが、その採掘で問題が発生していたそうだ」

 十年前、誘拐。黒髪の少年。アイリーシャには教えてもらえなかった、犯人達のその後。
 ぴたりぴたりと、今まで問うことさえしなかったパズルのピースが頭の中ではまっていく。

「ああ――あれは、エドアルト様だったんですねぇ……道理で、一緒に誘拐された男の子のこと、『無事に家に帰れた』としか教えてもらえないはずだわ」

 王子が誘拐されたなんて、公表するわけにもいかない。
 幸いなことに――と言えばいいのだろうか。当時のアイリーシャは五歳。すぐに忘れるだろうと大人達は思っていたのだろう。
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