転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
 実際のところはしっかり覚えていたけれど、無事に家に帰れたのならどこの誰か追及する必要はないと思っていただけだけれど。
 それで納得できた。事件について、ろくな記録が残っていなかった理由が。

「あの時、俺は情けなくてどうしようもなかった。自分より小さい女の子に、守ってもらうしかなかった自分が」
「や、それはしかたないですよ。当時のエドアルト様は、まだ十歳にもなっていなかったんだし」
「君はまだ五歳だった」

 頭の中身は十八だった――と、エドアルトに言う必要もないだろう。
 あの時、二人とも全力を尽くした。その結果、今があるのだからそれでいい。

「あの時、決めた。今度は俺が守ると。剣なら、絶対に君を巻き込まない」
「……それで」

 それで、剣術を磨く方に向かったのか。何かあった時、アイリーシャを巻き込まないために。
 どうしよう。こんな状況なのに、心臓が早鐘を打ち始めている。
 耳までが熱くなったけれど――ちょうどその時、ルルが教会に到着した。

 教会の礼拝堂。
 そこは、しんと静まり返っていた。
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