転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
(私、心のどこかでこの状況を想定してた……)

 今まで誰も気づかない方がおかしかった。
 ばたばたと倒れていく貴族達。皆、魔力は持っていたけれど、例外はミカルだけ。
 なぜ、ミカルだけ倒れなかったのだろうと考えないわけではなかったけれど――。

(今までの先生とは違う)

 そう思ったのは、ミカルの身体から、今までの彼とは明らかに違う魔力を感じたからだった。

「先生、なぜ、ですか?」

 口をついて出たのは、"所長"ではなく"先生"だった。幼い頃からのミカルとの関係性が、そう呼ばせたのだろう。

「なぜ? あなたがそれを言うとは思いませんでしたよ。アイリーシャ様」

 こちらを見るミカルの目は、今まで見たことがないほど冷たいものだった。背筋がぞくりとし、思わず一歩、交代する。
 その背中に当てられたのは、エドアルトの大きな手だった。
 "氷"と呼ばれているのに、彼の手は温かい。アイリーシャは息を吸い込んだ。大丈夫、大丈夫、

だ。

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