転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
 彼が持つのは知識だけ。いざという時、あれでは国の役には立たない――と。
 それが、彼の心をむしばんでいったのだろうか。

「でも、先生は資格を持たなかった。ルルとは契約できなかったのでしょう?」
「ええ。どうやら、見向きもされなかったようですね」

 困ったように、悔し気に、なんとも言えない表情にミカルの顔が歪んだ。

「しかたがないので、また違う世界の住民を呼び出すことにしたんですよ。彼は、私に力を貸してくれた。そこの聖獣とは違ってね」

 どうして、今まで気づかなかったのだろう。気づく機会は、今まで何度もあったはずなのに。

「……魔神と契約したんですか?」
「ええ」

 ミカルは微笑んだ。その笑みは、今まで彼がアイリーシャに見せた中で一番美しいものだった。
 悲しいほどに壮絶で、この世のすべてを排除しているような。

「――どうして」
「どうして? 私は自分で自分の道を切り開こうとしただけですよ」

 それは違う――そう言いたいのに、言葉が喉に張り付いたようだった。

「私は、あなたが憎い――どうして、あなただけそんなに恵まれているのでしょう?」

 間近にせまるミカルの顔。
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