転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
 その目の奥底に揺らめく憎悪に、一瞬呑み込まれそうになった。

(違う――私だって、そんなに恵まれているわけじゃ……)

「十年前、あなたという存在を知った。あなたは、私の教えるすべてを吸収していった――いつか、さほど遠くない未来。私はあなたに追い越されるでしょう。それが、許せなかった」

 彼の目に、射抜かれたように感じた。
 動くことができない。

「では、財を持つ者ばかり狙ったのはなぜだ?」

 側にいたエドアルトが、不意に話に割り込んできた。
 ミカルは妙にぎくしゃくとした動きで、エドアルトの方に目を向ける。

「ああ――単に、私が下町に行く機会がなかったというだけですよ。魔術研究所の近くで見繕いましたので」

 深い意味はなかったんです、と笑うミカルは、なんだか別人のように思えてならなかった。
 不意にエドアルトがアイリーシャの前に立ちふさがる。

「気をつけろ。そいつは、お前の言う"ミカル"ではない!」
「どういうこと?」

 問い返したけれど、ミカルはにやりとしただけだった。

(……でも)

 伝わってくる。ミカルの持つ魔力が変化した。
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