転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
 ミカルの中に誰か――いや、何かがいる。それは、ミカルの全てを飲み込み、支配し、そして大きく膨れ上がる。
 ミカルは、アイリーシャにとって尊敬すべき相手だった。彼がここまで導いてくれたのに。
 それなのに、彼が別の存在へと塗り替えられていく。

(私、何も見えていなかった)

 ミカルを敵に回すことなんて、できるのだろうか。アイリーシャはぎゅっと目を閉じた。

「来るぞ!」

 "ミカル"の手から閃光が迸った。
 けれど、その光が、アイリーシャを貫くことはなかった。エドアルトの抜いた剣が、その光を弾き飛ばしたから。
 冴え冴えとした氷の群舞。刃を包み込むように、氷が舞う。

「エドアルト様!」
「――今度は守ると誓った」

 エドアルトのその声は真剣なもので。
 その声に勇気を分け与えられたような気がした。
 今は焦る場合ではない――アイリーシャには、アイリーシャのやるべきことがある。

「――やります!」

 エドアルトが、時間を稼いでくれる。大丈夫だ。

(槍の使い方なんて知らないけれど、まあ、なんとかするしかないでしょう)

 手にした聖槍の重み。
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