転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
 地面から一気に立ち上った冷気が、宙に浮いて逃げようとしたミカルの足に絡みつく。冷気は白くミカルの足を染め、そこからじわじわと膝の方へと侵食していく。

「アイリーシャ!」

 鋭いエドアルトの声。
 チャンスは一度しかない――エドアルトの作ってくれたチャンスを、アイリーシャは逃したりしなかった。
 まっすぐに構えた槍を地面に突き立て、脳裏に思い描いたイメージそのままに、魔法円をくみ上げる。

「ギャアアアッツ」

 すさまじい声を上げながら、ミカルの身体から黒い靄のようなものが立ち上る。
 それが消え去るのと同時に、ミカルの身体はどさりと地面に倒れた。

(……終わった……のかな……?)

 エドアルトと顔を見合わせる。これで、魔神を倒したことになるのだろうか。

「おつかれぇ~、ありがとーう!」
「かるっ! 軽すぎるっ! 私、今一応世界救ったんですよね? なんで神様そんなに軽いの?」

 愛美をアイリーシャとして、この世界に転生させた神は、ミカルの身体をぺしぺしと足蹴にした。緊張感、皆無である。

「だって、我、君が勝つって確信してたしぃ。あ、こいつはもらっていくぞ」
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