転生令嬢はご隠居生活を送りたい！ 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

第三章

誕生日からひと月が過ぎた。
　ダリアとミリアムの二人とは、あれから三回顔を合わせた。同年代の友人のおかげで、年齢相応のふるまいもだいぶできるようになってきたと思う。

（家族仲がいいのが、一番の誤算だったかも）

　前世の家族は、アイリーシャのことを道具としかみなしていなかった。けれど、今回の家族は違う。
　朝食は家族そろって取るし、昼食と夕食もできるだけ一緒に取ることにしている。
　まだ五歳であるけれど、アイリーシャはすでに貴族としての勉強がはじまっていた。午前中は家庭教師について、基本的な読み書きや音楽の勉強。身体を動かすこともある。
　昼食後は、昼寝の時間をとり、起きたら自由時間だ。
最初のうちは、前世の記憶で若干混乱したりしたものの、思っていた以上に早くこの世界に順応することができている。
そして、今。アイリーシャは庭で、神様と一緒に"隠密"スキルの特訓に励んでいた。
　これは、自分の存在感を薄くするというものである。気配を感じさせなくなるのだ。
　限界まで鍛え上げれば、存在感を完全に消滅させ、目の前にいないようにいないように感じられるらしい。