転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
王宮が見える位置に公爵邸はあるけれど、中に入ってみると、あまりにも広く壮麗なので驚かされる。

「大丈夫、怖いことは何もないから」

 父はそう言うけれど、言われれば言われるほど不安が大きくなってくる。
白い石造りの柱には、見事な彫刻が施されている。招き入れられた扉は、正面のものではなかったけれど、その扉もまた高価な材木を使い、金と銀で飾りの施されたものだった。

「ここ、どこ?」
「ここは、お父様が仕事に来る時に使う扉だよ。正面の扉は、正式な客人として招かれた時に使うんだ」

 そんな区別があるとは知らなかった。
 仕事に使う――ということは、父をはじめとして出仕した貴族達が、務めを行うための場所ということか。

「お母様」
「そんな顔をしないの。アイリーシャは今日も可愛いわよ」

 母もアイリーシャが不安に思っていると判断したのだろう。安心させるように微笑みかけてくれる。けれど、アイリーシャはまったく安心できなかった。

(見られてる見られてる……すごく見られてる……!)

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