転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
五歳の時、魔力を暴発させてしまったのは、あの時ただ一度の偶然であるということになっている。
 実際には、暴発させたのではなく細心の注意を払って発動させたのであるが、大人達はそんなことは知らない。

(三日に一度、ここまで通ってくださったのにね)

 アイリーシャは、非常に優等生的と言えばいいのだろうか。
 四大属性魔術すべてを使いこなすことができる。だが、いずれも秀才どまりであって、天才ではない。
すべてが平均点以上でありながら、平均以上どまり。
 天才の域に達しているものはなに一つない。それは、かつて首都で民家の天井を吹き飛ばしたアイリーシャが期待されるには、あまりにも凡庸な結果でしかなかった。

(もう少ししたら、神聖魔術に目覚めるって神様は言っていたけれど……)

 最後に会った時、神様はそう言っていた。それがいつのことになるのかまでは教えてもらっていない。

「では、この的を射抜いてください」
「はい、先生」

 訓練所の端に、アイリーシャは立つ。訓練所の壁には、四枚の的が取り付けられていた。

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