転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
 男の子を誘拐しようとした犯人達は、あのあとどうなったのだろう。
 アイリーシャには、詳しい話は聞かせないと決められていたようで、どうなったのか知らされていない。

(今さら聞いたところでどうにもできないしね)

 アイリーシャは、窓の外を見つめた。
中央通りは、多数の店が軒を連ねている。このあたりに並んでいるのは、いわゆる高級店だ。店の前に停められている馬車も、貴族の紋章入りのものが多い。
頼めば屋敷まで商品を持ってきてもらえるのだが、店を訪れるのを好む人も多い。両親はデートだと言って、しばしば二人でこのあたりを散策しているらしい。

「そんなに窓に張りつかないの。お行儀が悪いわよ」
「だってお母様、どのお店も楽しそう。領地には、こんなにたくさんのお店はなかったじゃない」

 公爵家の領地というだけあって、父の領地は栄えていた。だが、やはり都の賑わいとは違う。

(近いうちに、遊びに行ってみようっと)

 無力だった十年前とは違う。今は自分の身を守ることもできるし、こっそり護衛をつけて、回るくらいなら大丈夫なはずだ。

(ミリアムとダリアにも久しぶりに会いたいし……)

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