転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
五歳の誕生日に友人となった二人。彼女達との友情は、十年たった今でも続いている。

「でも、しばらくは無理よ。王太子殿下の成人のお祝いが終わってからでないと。王宮に上がる時のマナーをもう一度おさらいしないといけないし」

 窓にべったり張りついているアイリーシャを、母がたしなめた。

「殿下は、まだ成人式をなさっていなかったの?」

 この国で成人として認められるのは、十五歳を過ぎてからだ。十五歳になると同時に成人のお披露目をするのが大半である。
 王太子であるエドアルトは、アイリーシャより二歳上だったはずだから、とっくの昔にお披露目はすませたものだと思っていた。

「殿下は、剣術の修業をなさっていてね。それで、一人前になるまでは、お披露目は待っていそうだ」
「屋敷に入ったら、すぐにドレスの準備をしないといけないわ。最高の品を揃えなくてはならないもの」

 馬車の中で、母はぐっと拳を握りしめている。
アイリーシャはずっと領地にいた。母は、アイリーシャが十歳を過ぎてからは年に数度首都で過ごすこともあったけれど、娘自慢ができないのがつまらなかったそうだ。
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