私の執事には謎が多すぎる ー 其の一 妖の獲物になりました
「おい、大丈夫か!」
カラスを教室から追い出した先生が私たちの元に駆け寄った。
「私は大丈夫ですけど、撫子は?」
春乃が私に目を向けたので、咄嗟に笑って誤魔化した。
「大丈夫だよ。ビックリしただけで」
笑いながらガラスの破片を手で払ったら、渡辺先生に手を掴まれてハッとした。
「血が出てるじゃないか」
え?血?
掴まれた手を見ようと思ったら、先生が私の傷口を舐めてきて狼狽えた。
「先生……何を!」
「応急処置だ」
彼はそう言って背広の上着のポケットからハンカチを取り出して私の傷口を止血する。
その手際のよさに周りの生徒はうっとりしていたが、私は他にもある傷の痛みを我慢していてそれどころではなかった。
「水瀬さん、早退したらどうだ?」
先生にそう勧められたが、「大丈夫です。たいしたことありません」と痩せ我慢してそのまま授業を受けた。
早退なんかしたら尊が心配するし、あまりみんなに騒がれたくはない。
大丈夫。小さなガラスの破片が刺さっただけ。
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