私の執事には謎が多すぎる ー 其の一 妖の獲物になりました
「撫子……喋るな。あいつを片付けたら治してやるから」
目頭が熱い。
涙で視界がぼやける。
撫子と初めて出会った時と同じだ。
俺は何のためにずっと彼女のそばにいた?
彼女にずっと元気で笑ってもらうためだろ?
だったら、彼女に剣を刺した鬼を滅ぼせ。
俺は決して煌を許さない。
「絶対に倒すから、待ってろ」
少しでも元気づけるように撫子の頬に手をやると、彼女は俺の目を見て小さく微笑んだ。
声は出ていなかったが、彼女は何かを伝えようとした。その唇の動きを読む。
す……き?
俺にはわかる。彼女の命の炎があともう少しで消えようとしている。
最期の別れみたいな告白をするなよ。
「いい子で待ってろ」
彼女に口付けて、俺に残っている力を少し分け与える。
その唇は生気がなくて冷たくて……。
自分がふたりいればと思った。
もうひとり自分がいれば治癒に専念できる。
だが、できないことを考えても無意味だ。
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