私の執事には謎が多すぎる ー 其の一 妖の獲物になりました
『失礼。さくらんぼが嫌いなのかと思いました』
尊の顔が浮かんだその時、キーンと耳鳴りがした。
何かおかしいと思って春乃に目を向けると、彼女が止まっている。
え? どうして?
「春乃?」
声をかけても、彼女に触れても反応しない。
彼女だけではない。
他の客も店員も止まっていた。
「これは一体何?」
治癒の術を使ったから疲れてしまったのだろうか?
何度も瞬きをするが状況は変わらない。
私は自由に動けるのになぜ?
何か嫌な感じがする。
「君、治癒の術が使えるんだね。僕も治してよ」
男の子の声がしたと思ったら、目の前に十二歳くらいの少年の姿をした妖が現れた。
頭にふたつ角があって、大怪我をしたのか片目がなく、見ていて痛々しい。
肌は赤く、右手に金の腕ををしていて黒い衣を身に纏っている。
「風を操る人間に目をくり抜かれちゃってさあ。人間の血をいくら啜っても治らないんだ」
本当の子供のように無邪気に笑うが、人に化けられる妖は他の妖よりも強くて頭もいい。
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