私の執事には謎が多すぎる ー 其の一 妖の獲物になりました
周囲に目を凝らすが他には邪悪な妖はいない。
「撫子、大丈夫か?」
彼女の元へ行き、声をかけるが目を開けない。
どれだけ血を吸われたのだろう。
彼女は血色がなくなっていた。
「姉ちゃん死んだの?」
猫の妖の少年が来て、彼女の顔を心配そうに覗き込む。
「生きてる。絶対に死なせない」
少年に答えるというよりは、自分にそう言い聞かせた。
撫子の呼吸は浅く、もう一刻の猶予もない。
手っ取り早く治すには……。
撫子を抱きかかえ、彼女に顔を近づけてそのふっくらした唇に俺の唇を重ね、息を吹き込んだ。
戻ってこい、撫子。戻ってこい。
俺より先に死ぬなんて許さない。
何度も念じる。
すると、血色が戻ってきて、首筋の傷もだいぶ綺麗になった。
「……み……尊?」
彼女が目を開けて俺を見る。
「ええ。私ですよ」
優しく返事をしながらその絹糸のように綺麗な髪を梳いてやると、彼女は俺の腕をギュッと掴んだ。
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