耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
***


「理工学部はここだよ」

「ありがとうございます!」

「いや、僕もちょうどここの講義を取る予定だったんだ。―――って、ちょっと遅刻気味だけど」

「ご、ごめんなさい……私のせいで遅れてしまったんですよね………」

「いや、君のせいじゃないよ。僕がうっかり講義の時間を忘れてただけ」

そう言った彼は、押し開けたガラスドアが締まらないように持っている。美寧は、自分が通るのを待ってくれているのだとすぐに気付いて、小さく会釈をしながら理工学部の中に入った。


大学構内で迷子になりかけるというまさかの事態に陥っていた美寧を、この理工学部まで連れて来てくれたのは彼だ。

神谷(かみや)と名乗った彼は、この大学の教育学部に通う学生で、美寧に声をかけた時はちょうど二限の講義を受ける為、理工学部(ここ)に向かっているところだったという。

(良かった……親切な人に出会えて)

やっと辿り着けた目的地にホッとしながら、美寧は学部棟のエントランスホールを見回した。

真正面には窓口があり、その上には【理工学部事務室】と書いたプレートが貼り付けられている。窓口の向こうではパソコンを前に仕事をしている人が数名見えた。
ホールには他にも、階段、エレベーター、色々な紙が貼られた掲示板がある。その隣に構内案内図があるのが目に入った。

(れいちゃんのいる場所が書いてあるかも)

そう思って掲示板に向かって足を踏み出した時、少し後ろにいた一ノ瀬から声が掛けられた。

「どの講義を見てみたいの?電気?情報?」

「あの、えぇっと……」

急に聞かれた質問にまごつく。美寧は怜からもらっていた名刺の文字を必死に思い返した。

「れい、……藤波准教授、応用生物の」

「ああ、じゃあ一緒だ!」

「え?」

「藤波先生の“基礎生物学(こうぎ)”はこっち」

美寧の腕をパッと取った神谷は、そのままずんずんと廊下の奥へと進んで行く。
腕を引かれるまま廊下を一番奥まで進んだところで、彼が静かにドアを開けた。最小限に開けたドアから半身を中に入れた神谷が、口元に人差し指を立て、反対の手で美寧を手招きする。

(静かに入ってきて、ってこと?)

美寧は小さく頷くと、彼の後に続いた。

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