耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
一歩踏み入れたそこは、扇型の階段状になった広い教室になっていた。美寧たちが入ってきたドアは、教室の上側の端に位置しているようだ。

正面の教壇に向く学生たちの頭を目で追って、辿り着いた先に釘付けになった。見下ろした教壇に立っていたのは探していたその人。
美寧の心臓がどきんと跳ねた。

(れいちゃんだ!)

ちゃんと辿り着けたことにホッとすると同時に、何故か心臓がトクントクンと波打つのを感じる。

(なんだろ、これ……)

緊張しているときに起こるような心臓の動きを不思議に思った時、一番後ろの席に座った神谷が、胸の前で小さく手招きをした。美寧は慌てて彼の隣に腰を下ろした。


(れいちゃんだぁ……)

座ってからもずっと、美寧は怜の姿から目が離せなかった。

白衣を羽織ってホワイトボードの文字を指しながら、怜が手に持ったマイクで話している。講義室が広いからマイクなのだろう。
アンプを通した彼の声はいつもとどこか違っていて、美寧は一生懸命耳を傾ける。怜が話している中身はよく分からないけれど、一音も聞き逃したくない。

目に映るのは、今朝いつもと同じように『いってらっしゃい』と送り出したばかりの彼。

なのに今、教壇に立つその人はなぜか初めて見る人みたいで―――

さっきからトクトクと鼓動を速める心臓が運ぶ血液が、美寧の白い頬を桃色に染めていて、瞳はまるで星空を映した夜露のように煌めいている。

けれど当の本人はそんな自分の様子には全く気付かず、両目両耳をフル稼働させて全神経を怜に向けていた。

一通り書いていることを話し終えたのか、ホワイトボードを上下にスライドさせて入れ替えた怜が、教室全体を見回すようにゆっくりと顔を動かした。

(あっ、)

美寧の心臓がドキッと高く跳ねた。
一瞬、離れている美寧のところからでも分かるほど、涼しげな瞳が見開かれたのだ。
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