耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
怜はふっと短く息をつくと、その額に軽く口づけを落とした。

「そんなことはありません。ただの迷信です」

「………そうなの?」

「はい。……『初恋は実らない』って聞いて不安になりましたか?」

「………」

美寧が黙ったまま小さく頷く。

「ミネの初恋は俺?」

そう尋ねられた美寧は、目を丸くしたあと頬を赤く染め、もう一度小さく首を縦に振った。
その仕草に、怜の瞳がゆるむ。

(どうやったら、この可愛すぎる人を安心させられるのでしょうかね)

怜の脳裏に美寧の台詞がよぎる。

『私も欲張りになっちゃったのかな……前みたいなキスじゃないと寂しいって思っちゃうのは………』

自分から精いっぱいの”特別なキス”をくれた彼女はそう言った。

あれから一週間も経つというのに、自分からはまだ軽く触れるだけのキスしかしていない。
だからだろうか、彼女が些細なことで不安そうな顔をするのは。
彼女を不安にさせているのは怜自身かもしれない。

泣かせたくない怖がらせたくないと思うあまりに臆病になってしまう情けない自分。
美寧はあんなにも懸命に、自分の気持ちを伝えてくれたというのに———


美寧が頬を染め潤んだ瞳で怜を見上げる。

本人はまったく気付いていないが、その仕草は無垢な愛らしさの中に匂い立つような色香が滲んでいる。

花のような甘い香りに誘われて、怜はその小さな唇に自分のものをゆっくりと近付ける。
怜が何をするのかが伝わって、美寧が静かに瞼を下ろす。唇が触れ合った途端、長い睫毛がピクリと震えた。

そっと触れ合わせた唇。互いの息遣いが伝わるほど静かな口づけ。それは、心地良くもあり少しむずがゆくもある。

美寧の体から余計な力が抜けたのを見計らって、怜は彼女の唇を自分の唇でゆるく挟んだ。上唇と下唇をそれぞれやわやわと食むと、薄い唇がかすかに開く。その隙間を舌先でなぞった。


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