耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[1]


———ピンポーン

来客を告げるチャイムが聞こえた。

一瞬動きを止めた怜だったが、まるで何も聞こえなかったかのように静かにドアを開け、抱えた美寧ごと部屋の中に入る。
そして後ろ手に音を立てずにドアを閉め、ゆっくりと部屋のベッドの上に彼女を下ろした。

横たえられた美寧の顔にゆっくりと怜の顔が近付いてくる。
あと少しで唇が重なろうとする、その一瞬前。

———ピンポーン———ピンポーン

再び呼び鈴が鳴った。


「あの……れいちゃん、……誰か来たみたいなのだけど……」

立て続けに鳴っている呼び鈴は、まるで「早く出ろ」と来訪者の代弁をしているかのようで。

美寧が長い睫毛を何度か(しばた)かせている間に、また呼び鈴が鳴る。
間髪入れない音が、「早く出ろ」と催促している。

落ち着かない様子の美寧を見て、怜は音を立てずに溜め息をついた。

「少し待っていてください」

怜は美寧の額に羽のようなくちづけを落とすと、部屋から出ていった。



自室から玄関に向かう廊下を足早に進む。
バスルームの前を過ぎ、キッチンへの扉を開き、キッチンを通って玄関ホールに続く引き戸に辿り着く。その間もチャイムは鳴り続ける。「絶対出ろ」と言うように。

(何かあったのだろうか………)

こんなとき(・・・・・)に限って———

そう思ってから、怜は自分が少し苛立っていることに気付く。自分らしからぬ感情に、ふっと苦く笑った。


玄関の上がり(かまち)から三和土(たたき)に降り、「はい」と扉の向こうに返事をしながら玄関の鍵を開け、引き戸に手を掛ける。

重たい引き戸が立てる音に、(明日また油を差すか———)と思いながら開けた先に、友人の姿があった。

「ユズキ……それに、」

「久しぶりだな、フジ」

涼香の隣に立っていたのは高柳だった。

長い付き合いの友人二人が揃ってこのうちを訪れるのは何年ぶりだろうか。
思わず驚いた怜だったが、二人の後ろ、少し距離を空けたところに立っているもう一人の人物に気が付いた。

仕立ての良い三つ揃えのスーツを卒なく着こなす、自分よりも年若い男性。
目が合うと、その男性は二重の垂れ目でまっすぐに怜を見つめてくる。そこには、なぜか敵意のようなものが滲んでいた。

「ユズキ、ナギ。そちらの方は……?」

怜が訊くと、高柳が少し体を横によけ、男性が前に進み出る。
高柳が口を開こうとしたその瞬間、怜の後ろから足音を立てながらやってきた美寧が、「あっ!」と驚いた声を上げた。


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