耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[2]


走り去った美寧を追って涼香が出ていったあと、テーブルを囲むのが男性だけになった。

ここに来た時に御曹司然としたオーラを放っていた聡臣(あきおみ)の顔は、今は青ざめている。美寧に『大嫌い』と言われたことが(こた)えているのかもしれない。

それでも今が"怜の前(ひとまえ)"であることにすぐに気付き、瞬時にそれを覆い隠した。

「………すみませんでした。妹のことになるとつい……冷静さを欠いてしまって……」

「いえ……」

妹のことになると冷静ではいられない。それは、彼がそれだけ美寧のことを大切に思っている証拠。
怜に断ったことで冷静さを取り戻したのか、聡臣は坦々と話し始める。

「———ですが、妹は年齢の割に幼いところがあります。ずっと祖父の元で大事にされてきたせいかもしれません。ですから、無邪気にあなたといたいと言いましたが、それがどういうことかよく分かっていないのでしょう」

「いえ、そのことですが……ミネとは、きちんと、」

自分と彼女とは恋人同士で、彼女もそれを理解して一緒にいるのだ。
そう説明しようとした怜の言葉を遮るように、聡臣が言った。

「欧州の仕事を終えてやっと美寧と、……長く離れて暮らしていた妹と一緒に暮らせると楽しみにしていたんです。僕に…僕たちとって、美寧は大事な家族です。お願いします、あなたからも妹に帰ってくるよう言っていただけませんか?」

まっすぐに、射抜くように聡臣が怜を見つめる。そして怜の返事を聞かず立ち上がった。

「今日は突然失礼いたしました。またお伺いします。———もし何かあればいつでもご連絡ください」

そう言って頭を下げた。
テーブルを挟んだ男性三人が立ち上がった時、リビングの襖が開いて涼香が戻ってきた。

「ユズキ———」

呼びかけた怜に頷きを返した涼香は、「大丈夫———少し混乱しているだけよ」と言う。

「少し疲れていたみたいだから、このまま眠ったらいいと言っておいたわ。もし何かあったら夜中でもいいから連絡して?このまま朝まで熱を出したりしなければ、大丈夫だとは思うのだけど」

「ああ、分かった。ありがとう」

そうして、聡臣と一緒に高柳と涼香も帰って行った。


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