耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[3]


涼香が帰った後、美寧は布団に突っ伏して、兄に投げつけた暴言をひたすら悔やんでいた。涼香と話したことで頭が冷えたのだ。

(私……お兄さまにひどいことを……)

どんなに後悔しても、一回口から出たものはもう元に戻すことは出来ない。時間は巻き戻せない。

兄が怜の家を『こんなところ』と言った時、なぜか耳の奥で別のひとの声が甦った。

『君は、本当はこんなところ(・・・・・・)にいるべき人じゃないだろう?』



どうしてみんな、美寧の大事な場所を、大事な人をそんなふうに言うのだろう。

こんなところ(・・・・・・)なんかじゃない。
美寧にとって怜と暮らすこの家は、ぽかぽかと温かい陽だまりのような場所なのに。

冷たい檻のような父の家で冷えきった美寧の心。それを温めてくれたのは、間違いなく藤波家(ここ)
美寧にとってこの家は、優しく包み込んでくれる怜そのものなのだ。

それなのに、大事な場所をそんな風に言われるなんて我慢ならなかった。


こんなとこ(・・・・・)なんかじゃないっ!!この家は……私にとって……私たち(・・・)にとって、とても大事な場所なんだからっ!!』

自分の口から飛び出した激しい声に、自分でも驚いた。しかも、怒りに任せて『だいっきらい!』とひどい言葉まで投げつけた。

果たして、自分が本当にそう言いたかった相手は、兄だったのだろうか―――

『君は、本当はこんなところ(・・・・・・)にいるべき人じゃないだろう?』
『とにかくお前はこんなところ(・・・・・・)に居ちゃダメなんだ』

颯介と兄の声が両側から聞こえてくる。

「やめてっ……」

美寧は耳を塞いで枕に顔を埋めた。



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