耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー


「———ミネ」

コンコンとノックの音が聞こえ、(ふすま)越しに呼びかけられる。顔を上げて襖の向こう側を見つめた。

美寧はノックに返事をしなかった。いや、出来なかった。

今の自分の顔は泣き顔よりひどい。こんな負の感情で歪んだ顔を、怜には見られたくない。

「ミネ———何か食べませんか?」

襖の向こうから怜が言う。
そう言えばマスターの誕生日会から帰って、もうずいぶん時間が経っている。兄たちが来たのは六時前だったが、今はもう七時過ぎ。少し迷って返事をした。

「ううん……私はいい……れいちゃんだけ食べて……」

「わかりました」という声が襖越しに聞こえ、ほどなくして怜が廊下を戻っていく音がした。


(ごめんなさい……れいちゃん………)

自分はいったい彼に何を謝っているのだろう。

夕飯を断ったこと?心配をかけたこと?兄がひどいことを言ったこと?
それとも、自分がいるせいで彼に迷惑をかけてしまったこと?
それとも、自分の本当の名前を今までずっと黙っていたこと———

きっとどれも、全部。

ぐちゃぐちゃなのは顔だけじゃない。心の中はそれ以上。
美寧は自分自身が醜くてたまらなくて、また布団に突っ伏すと、枕に顔を(うず)めて固く瞳を閉じた。


***


物音に目を覚ます。いつの間にかうとうとと眠っていたようだ。
持ち上げた瞼の向こう側に人の気配を感じる。

「れい…ちゃん……?」

寝起きで掠れた声は、どうやら襖の向こうに届いたようで、「開けますよ」という声が聞こえ、スーッと静かに襖が開いた。
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