耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「ミネ———起こしてしまいましたか?」

「ううん、……大丈夫」

言いながら上半身を起こすと、入ってきた怜が布団の隣に膝を着く。そして両手に持っていた盆を畳の上に下ろした。

「それ……」

盆の上に乗っているものに既視感を覚えた。

「あまり食欲はないでしょうが、少しでも胃に入れた方が良いと思いますよ?」

そう言って、怜が土鍋の蓋を開ける。
ふわっと湯気が立ち上った。

湯気の向こう側で怜が微笑んでいる。
目の前が霞んで、瞼が熱い。喉の奥からせり上がってきた熱い塊を、無理に飲み込もうとしたら唇が震えた。

怜が鍋の中身をお椀によそう。木製の(さじ)を椀の中を一周させると、中身をすくい取る。

「はい、口を開けて」

怜が言う。向けられた匙の上にはとろりとした雑炊。白いお米に混じる黄色い玉子。

差し出された玉子雑炊がゆらゆらと滲んでぼやける。

「ほら早く。落ちてしまう」

“あの時”と同じ台詞に見開いた美寧の大きな瞳から、ポロリと涙がこぼれ落ちた。
立て続けにポロポロとあふれ出す涙はこぼしても、匙の中身をこぼさぬよう、美寧は目の前のそれをパクリと口に入れた。

ゆっくりと味わいながら咀嚼し、ゴクンと飲み込む。

お米の甘みと玉子の旨み。そしてふわりと薫る生姜の香り。

あの日と同じ優しい味に、胸の底に溜まっていたドロドロとした黒い塊が、スッと消えていく。胃の中に落ちた温もりは、今度もやっぱり美寧の心をぽかぽかと温めていく。

「おいしい……」

呟いた美寧の頬を幾筋もの涙がすべり落ちる。
「ううっ……」と我慢しきれない嗚咽が漏れた時、怜が言った。

「『遠慮せず思いっきり泣いていいのですよ。それを咎める者はここにはいません』」

「れいちゃ…ん……」

「そう言いましたよね?」

首を傾げてそう言った怜。涼しげな瞳を柔らかく細め、微笑んでいる。
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