耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「………ごめん…な、さいっ……」

それだけ言って泣き出した美寧を怜がゆっくりと抱き寄せる。怜の腕の中で美寧はわんわんと声を上げて泣いた。

「ごめんなさいっ、ほ、ほんとの…名前……いわ…なくて………」

「『俺はあなたが何者でもかまわない』———そう言いましたよね?」

「でもっ、わたし……わたしが、いたら……れいちゃんにっ…めい、わく、」

「迷惑なんて何もありません」

「で、でもっ……」

兄が言っていた。『社会的地位のある怜が年若い美寧と暮らすのはリスクがある』と。

「わたしが、いるせいで……れいちゃんに、もしっ、」

「ミネ———」

自分を呼ぶ声に嗜める響きを感じて、美寧は言葉を止める。反動で「ひっく」としゃくり上げる。

「あなたと一緒に居ることで、これから絶対何も問題が起こらない、とは言い切れません」

もう一度「ひっく」としゃくりあげた美寧の頬を、怜が優しく拭いながら言う。

「だけどそれを『迷惑』と思うことは絶対にありません。あなたと一緒に過ごす未来に起こることは、どんなことでも俺にとっては全部大事なことです」

「っ……」

「だから『俺に迷惑をかける』と思わないで———何かあったら、その時は一緒に考えましょう。あなたにとって……二人にとって、一番良い方法を」

「れい、ちゃんっ……っく」

大粒の涙が後から後から美寧の頬を滑って落ちて行く。
微笑みながらそれを拭った怜は、なかなか泣き止めない美寧を一度強く抱きしめる。そしてゆっくりと腕を(ほど)くと、美寧の顔をのぞき込んで言った。

「さぁ、もう少し食べましょう」

美寧が頷くと、再び雑炊の乗った匙が向けられる。
五か月前と同じように怜の手から雑炊を食べ、茶碗一杯分を空にした。
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