耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[2]


パタパタと音を立てながら、美寧はキッチンまで一直線に走って行った。
素足に触れる床がひやりと冷たいが、そんなことは気にも留めない。それくらい焦っていた。

目が覚めたら怜が隣にいなかった。
場所は怜の部屋のベッドの上。なのに、いるのは自分だけ。
ダブルサイズのベッドは半分だけ空いていて、そこに温もりすらない。そのことに気付いて慌てて跳び起きた。そして怜の部屋を飛び出してきた。足のうらが冷たいことなど、気にしている場合ではない。

「れいちゃんっ」

キッチンに続くドアを開けると、振り返った人と目が合った。

「おはようございます、ミネ」

ホッと息をついて、ゆっくりと怜に近づく。

「良かった……もうお仕事行っちゃったのかと思ったよ……起こしてくれたら良かったのに」

「気持ち良さそうに眠っていましたので」

言いながら怜は、美寧の頬にかかった髪を指先でよけてくれる。そしてゆっくりと唇を重ねた。

「おはようございます」

「お、おはよう……」

「ちょうど良かったです。もうすぐ朝食が出来ます。何か羽織って、温かくしてきてくださいね」

そう言った怜がチラリと美寧の足元に視線を遣る。

「足も。冷やさないように」

「………はい」

指摘されて急に足が冷たいことに気付いて、美寧は大人しく頷いた。


言われた通りに服を着替えて、ちゃんと《《もこもこ》》靴下を履き、顔を洗ってからキッチンに戻ってきた美寧。怜はフライパンで何かを焼いているところだった。美寧は紅茶の準備の手を止めて、彼の手元をのぞき込んだ。

「れいちゃん、これって……」

「フレンチトーストです。昨日のバケットの残りを使ってみました」

「あ……」

「最近あまり食べられていないですよね……調子が良くないですか?」

そう問われて初めて、美寧は怜が自分の食欲が落ちていることを知っていたのだと悟った。

「そ、そんなことない………」

怜に心配を掛けたくなくてそう言ったが、確かに胃の調子が良いとは言い難い。涼香に出してもらった胃薬を飲むこともあった。

何も言わず微苦笑を浮かべた怜。美寧のことはすっかりお見通しのようだ。
彼は「朝食も無理せず食べられる分だけでかまいませんよ」と言い、美寧の頭を優しく撫でてくれた。


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