耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「でも、………もし家に帰ったら……ここに……れいちゃんと一緒に…いられない……」

『怜と一緒にいられない』
口に出しただけで胸がきつく締め付けられる。まるで目に見えない誰かが、美寧の体に手を入れて心臓を鷲掴みにしているのかと思えるほど、痛くて苦しくて堪らない。
兄が海外に行くと聞いた時でさえも、こんな風になることなんてなかったのに。

瞼に集まり始めた雫を(こら)えるよう、ぎゅっと固く瞳を閉じた美寧に怜が言った。

「黙って出てきたことで、ご家族はあなたのことを心配されています。それにあなたも、」

「れいちゃんはっ!?」

美寧はとっさに声を張り上げていた。パッと開いた瞳を、薄い水膜が覆っている。

「………れいちゃんは、いいの?私がここから出ていっても………平気なの?……」

「ミネ……それは、」

怜が何か言おうとするより早く、美寧は呟いた。
今にもこぼれ落ちそうなほどの雫を湛えた瞳が、ふにゃりと歪められる。

「そっかぁ、だから……なんだ……」

「ミネ……?」

「だから、前みたいに触れてくれなくなったんだ……れいちゃんが“遠い”のは、忙しいせいだと思ってた………でも、違ったんだね……れいちゃんは………れいちゃんは、」

「ミネ、聞いてください。俺は、」

何も聞きたくないと言わんばかりに、激しく頭を振った美寧。雫がポタポタと左右に飛び散る。

「ごめんなさいっ」

それだけ言って勢いよく立ち上がった美寧は、走って部屋を出ていった。
カタンと襖が開け閉めされる音がして、自室に飛び込んだのだと分かる。

美寧を追いかけようとすぐに立ち上がった怜だったが、美寧が出ていった方をじっと見つめた。

そして、彼女の皿の上に残された最後の一切れを眺めながら、小さな溜め息を落とした。





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