耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[3]


その日の夕方。美寧はラプワールでのアルバイトが終わった後、商店街で買い物をしてから帰路に着いた。

ラプワールを出てから、もう小一時間。
買い物中も美寧の頭の中は同じことばかりを考えてしまう。そのせいで買い物に集中できず遅くなってしまった。

昼過ぎから降り出した雨は、美寧が商店街のアーケードを出るころには粒が大きくなっていた。
今夜から未明にかけて到来する寒気が、雨を雪に変えるかもしれない。朝の天気予報通りなら。

差した傘の中で物思いに沈む。
急いで帰らなければ、と足は忙しく動くけれど、頭の中はまるで一ミリも前に進んでいない。同じところをばかりをグルグルと回りつづけている。
あれからずっと、怜の言葉が頭の中に焼き付いて離れないのだ。


『一度、家に戻ってみたらどうですか?』

初めは何を言っているのか理解できなかった。

同じ言葉を二度言われた時、頭が真っ白になった。
怜がその後言ったことは、半分も頭に入ってこなかった。

大事にされていると思っていた。大事にしたいと思っていた。
自分がいなくなっても怜は平気なのか。ずっと一緒にいたいのは、自分だけなのか。

だけど、本当は自分はいてもいなくても大差ないのかもしれない。
怜にとっても、父にとっても———

そんな気持ちが一気に美寧の中に押し寄せて、怜の口から『美寧がいなくても大丈夫』という言葉を聞きたくなくて、衝動的に部屋を飛び出し自室に駆け込んだ。
たとえ鍵がかからない襖と障子しかない部屋だとしても、怜は許可なくそこを開けたりしない。それは分かっていた。
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