耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[1]
准教授室の椅子に深く腰掛け、怜は重い息を吐き出した。
外出先から自分の准教授室に戻った頃には、すっかり日が暮れていた。
研究室へ顔を出そうと、スーツの上着を白衣に替えようとしたそこへ、竹下の方からやってきた。
博士生である彼にとっても、研究の打ち切りは一大事。一体これからどうなるかと不安になるのは当たり前だろう。
怜から【月松酒造】との話し合いの結果をひとしきり聞いた竹下は、『実験室に行ってきます』と、部屋を出ていった。後ろから見ても、肩を落としているのが明らかだった。
【月松酒造】との受託研究の年内打ち切りが決定した。
この二週間で出来る限りのデータを集めたものを、【月松酒造】の社長の前で准教授自らプレゼンをしたが、当の社長は目の前にある資料を手に取ることも無かった。
その態度は暗に『研究自体必要なし』と言っているようで———
一緒に行った【CCO】の担当者も、『受託打ち切りは急すぎる。もう少し様子を見てからでも』と口添えしてくれたが、会議室の誰もそれに肯かなかった。
怜はもう一度軽く息を吐き出すと、デスクの上のスマホに目を遣った。
(そういえば、ミネからのメッセージを見る余裕もなかったな………)
三限目の講義が終わってからすぐ【月松酒造】へ向かった。
ちょうど美寧からのいつもの帰宅メッセージが届く頃は、月松の会議室で社長や重役たち相手にプレゼンをしていた頃だった。
美寧からのメッセージを確認しようと画面に触れようと手を伸ばした時、突然明るくなった画面には着信を告げる表示。そこにある名前に怜は軽く目を見張ると、一呼吸おいてから画面に指を滑らせた。
「はい———」
《Bonjour, Monsieur Fujinami!》
聞こえてきたフランス語に怜は眉ひとつ動かさず、淡々と返事をする。
「Bonjour, Monsieur Kunose———ご無沙汰しております」
《ああ、こうして電話をするのは少し久しぶりだね、藤波君。こちらは朝から良い天気だよ》
「それはなによりです。久野瀬(くのせ)教授」
《あまりにいい天気だから、気持ちの良い朝に嬉しい返事を貰えないかと思ってね———決心はついたかい?》
「………そのことなのですが———」
准教授室の椅子に深く腰掛け、怜は重い息を吐き出した。
外出先から自分の准教授室に戻った頃には、すっかり日が暮れていた。
研究室へ顔を出そうと、スーツの上着を白衣に替えようとしたそこへ、竹下の方からやってきた。
博士生である彼にとっても、研究の打ち切りは一大事。一体これからどうなるかと不安になるのは当たり前だろう。
怜から【月松酒造】との話し合いの結果をひとしきり聞いた竹下は、『実験室に行ってきます』と、部屋を出ていった。後ろから見ても、肩を落としているのが明らかだった。
【月松酒造】との受託研究の年内打ち切りが決定した。
この二週間で出来る限りのデータを集めたものを、【月松酒造】の社長の前で准教授自らプレゼンをしたが、当の社長は目の前にある資料を手に取ることも無かった。
その態度は暗に『研究自体必要なし』と言っているようで———
一緒に行った【CCO】の担当者も、『受託打ち切りは急すぎる。もう少し様子を見てからでも』と口添えしてくれたが、会議室の誰もそれに肯かなかった。
怜はもう一度軽く息を吐き出すと、デスクの上のスマホに目を遣った。
(そういえば、ミネからのメッセージを見る余裕もなかったな………)
三限目の講義が終わってからすぐ【月松酒造】へ向かった。
ちょうど美寧からのいつもの帰宅メッセージが届く頃は、月松の会議室で社長や重役たち相手にプレゼンをしていた頃だった。
美寧からのメッセージを確認しようと画面に触れようと手を伸ばした時、突然明るくなった画面には着信を告げる表示。そこにある名前に怜は軽く目を見張ると、一呼吸おいてから画面に指を滑らせた。
「はい———」
《Bonjour, Monsieur Fujinami!》
聞こえてきたフランス語に怜は眉ひとつ動かさず、淡々と返事をする。
「Bonjour, Monsieur Kunose———ご無沙汰しております」
《ああ、こうして電話をするのは少し久しぶりだね、藤波君。こちらは朝から良い天気だよ》
「それはなによりです。久野瀬(くのせ)教授」
《あまりにいい天気だから、気持ちの良い朝に嬉しい返事を貰えないかと思ってね———決心はついたかい?》
「………そのことなのですが———」