耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
目を閉じて車の揺れに身を任せる。
閉じている瞳の縁から、時々滲んでくる涙を拭いながら、美寧はきつくきつく唇を噛み締めた。口の中に鉄の味が滲んでくる。もっとそれが濃くなればいい。怜以外の感触なんて、血の味で忘れてしまいたい。
(れいちゃん………)
心の中で呟いた名前に、涙と一緒に罪悪感があふれ出す。
さっきから鞄の中で振動していたスマホは、美寧が電源を落とした。画面に表示された名前を見ることすらつらかった。
(ごめんなさい……やくそく……守れなかった………)
怜と約束したのだ。
『キスをするのはこれからずっと彼とだけ』と。
それなのに———
不可抗力だったとしても、その約束を破ってしまったことに変わりはない。
颯介にキスをされたことと同じくらい、そのことが辛くて堪らなかった。
手の甲で涙を拭って、嗚咽を無理やり飲み込む。
朝から起こった様々なことが、美寧の心を疲弊させていた。
心の容量を超えたそれらの出来事に、美寧の頭がぼんやりと霞んでいく。精神的なショックが、確実に美寧の気力を奪っていく。
何も考えたくない。今はただ忘れたい。
美寧は瞳と一緒に思考も閉じた。