耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
(「おかえりなさい」も言えなかった………)

『いってらっしゃい』を言えなかったことを後悔して、怜が帰ってきたらちゃんと「おかえりなさい」を言おうと思っていた。
そして、朝のことを謝って、二人で一緒に美寧が作った“サバ缶カレー”を食べて、ちゃんと彼と話し合おう。
そう思っていたのに———

膝を抱えた腕に力を入れる。自分を抱きしめるみたいに小さくうずくまって、膝に額をつける。
あれ(・・)からずっと体が気持ち悪くて仕方ない。

怜以外の男の人から抱きつかれた感覚がずっと残っている。思い出したら鳥肌が立って身震いしてしまう。何度も擦った唇がヒリヒリと痛い。

瞼が熱くなり、また涙が浮かび上がってくる。美寧はそれを振り払うように首を振った。

泣いても仕方ないのだ。
たとえ泣いても、頭を撫でてくれる優しい手はない。抱きしめてくれる温かい腕も。
泣いたらそれが余計に恋しくなるだろう。そして、その温もりがそばに無いことを実感して、もっと辛くなる。

美寧はそれをよく知っていた。一年半前に嫌と言うほど味わったのだ。

唇を噛み締めて、嗚咽を飲み込む。
ソファーの上で膝を抱える美寧は、ただただ胸の痛みと全身の不快感に耐え続ける。少しでもそれを和らげたくて、救いを求めるように無意識に手が首元に伸びた。
が———

「えっ、———うそ、」

あるはずのものが無かった。
貰って以来毎日欠かさず着けているネックレス。今朝もちゃんと着けていたはずなのに———

「どうして……どこで………」

慌てて立ち上がった時、パッと部屋の明かりが点いた。いきなりの眩しさに、目を(すが)める。


ドアが開く音にゆっくりと瞳を開いた時、美寧の瞳にその姿は飛び込んで来た。



< 265 / 427 >

この作品をシェア

pagetop