耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[2]



美寧は分厚いマグカップを両手で持って、ふぅふぅと息を吹きかけると、ひと口飲んだ。

「……おいしい…………」

冷えきった体が、内側からじんわりと温まり、カップを持っている手が、じんじんとしびれながら溶けていく。
コクのあるミルクの中に、ほんのり薫るはちみつ。それは昔から変わらない味。
美寧は昔から、寝る前にこれを飲むのが大好きだった。

懐かしい人が淹れてくれた懐かしい味が、傷付いた美寧の心を柔らかく包み込んでくれる。

美寧がホットミルクを飲み終わる頃、それを見計らったように風呂が沸いたことを知らされた。有無を言わさぬ視線で、「しっかり湯船で温まるよう」に言われ風呂へ行く。

美寧は思った。きっと風呂から上がったら、彼女(・・)が美寧の髪にドライヤーをかけてくれ、ブラシで()いてくれるのだろう。

これまでと何も変わらず———



ソファーの上で膝を抱えた美寧の前に現れたのは彼女(・・)———有村歌寿子(ありむら かずこ)だった。

目が合った瞬間、先に口を開いたのは歌寿子の方で。

お嬢さま(いとさん)!』

小さな目を見開いた歌寿子が、美寧の方へと駆け寄ってくる。

『ほんまに…いとさんやわ……』

『か…ずこさん……どうして………』

『「どうして」、やあらしまへんよ、いとさん。こないに夜遅うに、どないして……当麻の旦那様(だんさん)は?…聡坊(あきぼん)さんは一緒やおまへんのだすか?』

『………』

黙ったままの視線を下げた美寧に気付いて、歌寿子も問い質す勢いをゆるめる。そして美寧の手をすくい上げるように取ると、眉をひそめた。

『ひとまず、話を訊くのはあとにしまひょか……こないに冷えきらはって……』

そう言ってきゅっと握った手の甲を優しく撫でられて、美寧の瞳から涙が一粒こぼれた。


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