耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「ごめんね……ごめんなさい、れいちゃん………」

もう何度目か分からない言葉を口から出す。手が勝手に首元に触れる。けれどそこは何もない。

歌寿子がやってきて電気がついた後、美寧はネックレスを探してみた。が、祖父の家にはどこに落ちていなかった。

乗ってきたタクシーに落としたのだろうか。それとも颯介と揉めた時———いや、兄の車か———もしかしたら、それよりもっと前、不審者に抱きつかれた時に———いったいいつ、どこで落としたのかも分からない。

すぐに探しに戻ろうとする美寧を、押しとどめたのは歌寿子だった。
もう夜遅い上に、外は雪。こんな時にタクシーでまた長距離を移動するのは危ないと、説得された。一応念のため、乗ってきたタクシー会社には連絡を入れてくれたようだ。

指先に触れるはずのものが無くて、美寧の胃がきゅっと萎む。もう見つからないかも、そう思うと涙が滲み出す。

これも罰なのだろうか。
怜から大事な研究(もの)を奪った罰。

自分が彼から奪った物と同じくらい大事なものを、自分も手放さなければならないのかもしれない。

怜から貰ったネックレスも、怜と一緒に過ごす時間も。

きっとそれが、自分が彼に償うべき罰なのだ。


冷気に当たり続けた指先と同じように、心が麻痺していく。

怜と一緒に居られないなら、このまま一人ぼっちでもかまわない。
誰のところに(とつ)がされてもかまわない。それが怜でなければ、誰だって同じ。颯介だろうと、他の誰であろうと———怜ではないのだから。
さっきまで目尻に滲んでいた涙は、流れることなくどこかに消えてしまった。

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