耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
見下ろす紫陽花の枝に白い雪がうっすらと掛かっている。
その上からさらに降りそそぐ雪。そのちいさな粒はまるで、あの(・・)小さな砂糖菓子。

『俺は、これからずっと紫陽花と金平糖に感謝します』

低く、それでいて柔らかな声。
頭の中で響くその声は、美寧に教えてくれる。

『あなたがつらい時は俺がそばにいる。もしも悲しいことがあったら、今度は俺が金平糖をあげる』

“一緒に居られなくても一人じゃないのだ”———と。

そうだ。怜は自分にたくさんのことを教えてくれたじゃないか。

心のこもった料理が美味しいこと。
一緒に囲む食卓が温かいこと。
手をつなぐだけで幸せになれること。

誰かを愛することが、こんなにも嬉しくて幸せで、素晴らしいことなのだということも。

包み込むような優しさを、温もりを、抱えきれないほどの愛を。
彼はずっと惜しみなく美寧に与えてくれていた。

怜の優しい愛に包まれて、この数か月間で美寧にも出来ることが増えた。
生まれて初めてのアルバイトも経験した。愛情深いマスターや奥さんに支えられてきた。彼らに出会えたのも、あの日怜が美寧を拾ってくれたから———

「おじいさま。私、いろんなことが出来るようになったんだよ……?」

雪がかかる山紫陽花の枝に語りかける。

「電子レンジもコンロも使えるようになったの。ほうれん草のごま和えなら、もう一人で作れるんだよ?……今度ハンバーグも一人で作ってみるね、おじいさま」

今はもう“あの時”の自分じゃない。

祖父が亡くなって、父の家に戻っても何一つ自分で出来ることもなく、悲しみと孤独に身を浸して、ただ呼吸だけをするような毎日を過ごしていた時とは。
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