耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
苦しいほど抱きしめられているというのに、嫌と思うどころか心の底から安堵する。さっきまで感じていた息苦しさが嘘のように、楽になる。
それはまるで、溺れかけていた水中から陸地に辿り着いたような心地。

拭われたばかりの頬はすぐに元通り涙に濡れて、口からは泣き声しか出てこない。
なんとか泣きやもうと思っているのに、いつまで経っても涙は止まらず、口を開けば「う゛え゛っ」という動物の鳴き声のような声が出てしまう。

そんな美寧を抱きしめ、背中をゆっくりと撫でながら怜は言う。

「こんな情けない俺ですが、それでもあなたのそばにいてもいいですか……?」

『れいちゃんは情けなくなんてない!私もずっとそばにいたい!』

そう叫びたいのに、口を開けると言葉にならない。
もどかしさとはがゆさのあまり、きつく唇を噛んだ美寧。すると、怜は優しく諭すように言った。

「俺は、あなたとこれからも一緒にいられるよう、全力を尽くします。………言ったじゃないですか、『俺にはどんなことでもあなたとの未来が全部大事』だと。『問題が起きた時は、二人で一緒に考えましょう』と———」

「っ、………れいっ、………う゛う゛~~っ、」

怜の言葉に再び涙が勢いを増した美寧を、怜は強く抱きしめる。そして、濡れて冷たくなった白い頬にくちづけを落とすと、困ったように微笑みながら言った。

「それでも、どうしようもなくなった時は、俺と一緒に海の向こうに逃げてくれますか———?」

「っく、……う゛っ、……う、んっ」

嗚咽の合間になんとか美寧がそう言った時

「勝手に連れ去られるのは困るな———」

怜の体の向こうから声がした。

怜が振り向き、開けた視界の向こう側に、兄聡臣の姿があった。
そして。
そこにいたのは兄だけではなかった。兄の半歩後ろにいたのは———。

美寧は息をのんだ。





【第十四話 了】 第十五話につづく。
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