耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
***
開け放たれた縁側のガラス戸。乾いた風に頬を撫でられ顔を上げると、軒の向こう側に青く澄んだ空が広がっている。
「いいお天気」
空の眩しさに目を眇めながら呟いた美寧は、再び手元のスケッチブックに視線を戻した。
藤波家の縁側はいわゆる“内縁”と呼ばれるもので、縁の外側に建具を入れたものだ。軒の下に張り出した床板が、室内になるように建具が着いているので、雨の日でもここに座ってガラス越しに庭の景色を観ながら写生することが出来る。疲れた時に背中を預ける大きなビーズクッションも、無くてはならない縁側仲間だ。
思い付きから生まれた美寧の大冒険から一週間。
今日は祝日の為ラプワールは店休日。美寧のアルバイトはもちろんお休みだし、大学が休みの怜も家に居る。
とはいえ、怜はやらなければならないことがそれなりにあるようで、昼食を終えた後『少し部屋で仕事をします』と言って自室に戻って行った。
美寧は、昼食後お腹が落ち着くまでゆっくり休んだ後、庭を眺めながら描きかけの絵に色鉛筆で彩りを加えているところだ。
(れいちゃん、お仕事忙しそう……)
時々いつもの夕飯時間よりも怜の帰宅が遅くなることもある。そういう時は美寧のスマホにメッセージが入ってくる。
【帰りが遅くなりそうなので、先に夕飯を食べておいてください】
【分かりました。お仕事無理しないでね】
【夜は冷えるので、ちゃんと暖かくしてくださいね】
【はーい!れいちゃんも帰り道、気をつけてください】
そんなやりとりを可愛いスタンプと一緒にするのは楽しいけれど、やっぱり直接顔を見て話しをするのに勝るものは無い。
(大学でお仕事してるれいちゃん、また見てみたいなぁ)
迷子になったせいで怜に『心臓に悪い』と言われたことを忘れたわけではない。
思い付きで勝手に職場に乗り込んでしまったことは、重々反省している。けれど、普段とは違う彼の姿をもう一度見たいと思う気持ちも、やっぱり捨てられないのだ。
(大学の人たち、みんなすごくおしゃれだったな……)
あれからずっと、怜が女子学生たちに囲まれた光景が、瞼の裏に焼き付いたみたいに離れない。
どの子もみんな、キラキラと輝いていた。彼女たちは皆、自分には持っていないものを持っているのかもしれない。
手に持った色鉛筆の横に書かれた【mauve】という文字がぼんやりと映る。
膝に乗せたスケッチブックに書かれたパンジーの着色があと少しで完成だというに、そのことを考えては手が止まってしまって、一週間経った今もまだ完成させられていない。
開け放たれた縁側のガラス戸。乾いた風に頬を撫でられ顔を上げると、軒の向こう側に青く澄んだ空が広がっている。
「いいお天気」
空の眩しさに目を眇めながら呟いた美寧は、再び手元のスケッチブックに視線を戻した。
藤波家の縁側はいわゆる“内縁”と呼ばれるもので、縁の外側に建具を入れたものだ。軒の下に張り出した床板が、室内になるように建具が着いているので、雨の日でもここに座ってガラス越しに庭の景色を観ながら写生することが出来る。疲れた時に背中を預ける大きなビーズクッションも、無くてはならない縁側仲間だ。
思い付きから生まれた美寧の大冒険から一週間。
今日は祝日の為ラプワールは店休日。美寧のアルバイトはもちろんお休みだし、大学が休みの怜も家に居る。
とはいえ、怜はやらなければならないことがそれなりにあるようで、昼食を終えた後『少し部屋で仕事をします』と言って自室に戻って行った。
美寧は、昼食後お腹が落ち着くまでゆっくり休んだ後、庭を眺めながら描きかけの絵に色鉛筆で彩りを加えているところだ。
(れいちゃん、お仕事忙しそう……)
時々いつもの夕飯時間よりも怜の帰宅が遅くなることもある。そういう時は美寧のスマホにメッセージが入ってくる。
【帰りが遅くなりそうなので、先に夕飯を食べておいてください】
【分かりました。お仕事無理しないでね】
【夜は冷えるので、ちゃんと暖かくしてくださいね】
【はーい!れいちゃんも帰り道、気をつけてください】
そんなやりとりを可愛いスタンプと一緒にするのは楽しいけれど、やっぱり直接顔を見て話しをするのに勝るものは無い。
(大学でお仕事してるれいちゃん、また見てみたいなぁ)
迷子になったせいで怜に『心臓に悪い』と言われたことを忘れたわけではない。
思い付きで勝手に職場に乗り込んでしまったことは、重々反省している。けれど、普段とは違う彼の姿をもう一度見たいと思う気持ちも、やっぱり捨てられないのだ。
(大学の人たち、みんなすごくおしゃれだったな……)
あれからずっと、怜が女子学生たちに囲まれた光景が、瞼の裏に焼き付いたみたいに離れない。
どの子もみんな、キラキラと輝いていた。彼女たちは皆、自分には持っていないものを持っているのかもしれない。
手に持った色鉛筆の横に書かれた【mauve】という文字がぼんやりと映る。
膝に乗せたスケッチブックに書かれたパンジーの着色があと少しで完成だというに、そのことを考えては手が止まってしまって、一週間経った今もまだ完成させられていない。