耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「さ、帰りましょう。我が家に」
「うん!おうちに帰って、あったかいおでん食べたい!」
「その前にケーキの仕上げですね」
「がんばる!」
初めてのケーキ作りに気合十分の美寧は、グッと握った右手を胸の前に持ち上げ、怜を見ながら大きく頷く。怜は愛おしそうに目を細めて、ところどころについた白い粒を払うように小さな頭を撫でる。
「帰ってお祝いをしましょう———俺たちが家族になった、特別な日を」
「れいちゃんのお誕生日も!」
「ありがとうございます」
怜はもう一度「ふふっ」微笑むと、美寧の耳もとに口を寄せる。そして、美寧にだけ聞こえる声で囁いた。
「今夜の『初夜』も———」
「しょっ!………が、がんばる………」
「俺も頑張ります」
空いている方の手で真っ赤な頬を押さえ、チラリと隣に視線を遣る。すると、いたずらっぽい笑みを浮かべた怜と目が合った。
最近彼はそんな顔も見せてくれるようになった。
揶揄われたのかも、という思いが頭の端をかすめるが、それよりも怜が見せてくれる新しい表情に見惚れてしまう。
これからも色々な顔を見せて欲しい。
笑顔も、涙も、怒った顔でも、なんでも全部。
どんなことも『一緒に味わって』いくのだ。これからずっと。
ずっと永遠に。
「大好き、れいちゃん」
想いが言葉になって、口から自然とこぼれ落ちる。
軽く目を見張た怜は、「ふぅ~」と長い息をつくと、「あなたには敵いませんね」と微苦笑を浮かべた。
何が敵わないのだろう。不思議そうに小首を傾げた美寧の頭の横に、柔らかなくちづけが落とされる。
「俺も。大好きですよ、ミネ」
頬を赤く染めながら、嬉しそうに「ありがとう」と美寧が微笑む。
そして二人は家の門をくぐった。しっかりと手を繋いで。
家族になって戻ってきたこの家の住人を、門のすぐ内側にある柊の木が出迎えた。緑の葉と赤い実を、白く小さな雪結晶が飾っている。
そのわきには、背の低い枝だけの木。梅雨の時期になればまたこんもりとした青紫がこの庭に彩りを添えることだろう。
今はその彩りの代わりに真っ白な雪に飾られた紫陽花が、二人を静かに優しく見守っていた。