耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー


遡ること、数時間前。
事の始まりは美寧が趣味のスケッチに出掛けたところから。


毎週水曜日は、アルバイト先の店休日。
当たり前だが平日の為、大学に勤めている怜は仕事だ。
一人休日の美寧は、趣味のスケッチをしに出掛けるのがここ最近の水曜日の定番になっていた。


美寧が特に好きなのは、草花のスケッチ。四季折々の草花を描くのが、子どもの時からずっと続いている唯一の趣味なのだ。

スケッチに出掛けるのは実に二週間ぶり。先週は台風の為出られなかった。
季節柄台風は仕方ないけれど、珍しく美寧が住む地域を大きな台風が横断し、その被害は連日ニュースで被害が取り上げられていた。都心部では停電が起こった地域もあったが、幸いなことに怜の家に被害は出なくてホッとした。

それから一週間経つ快晴の今日。美寧は久々に公園の草花をスケッチしようと、前日の夜から密かに気合を入れていたのだ。


大きめの帆布バッグにスケッチブックを入れる。これはもう三冊目。
色鉛筆はラプワールでのアルバイト代で買った百色セット。国産メーカーの物で、単品でも買い足すことが出来るから重宝している。

祖父からプレゼントされたドイツ製の百二十色の物は、残念ながら父の家から持って出なかった。きっと美寧の部屋の机の引き出しで眠っているだろう。


今朝怜と作ったお弁当と一緒に、水筒も忘れずにバッグに入れる。
料理の練習としてお弁当作りを怜から教わるようになって、もう二か月以上経つ。
最初の頃は包丁を持つ手が震えていたが、根気強い怜の指導のおかげか、キュウリを五ミリ幅で切ることが出来るようになった。卵を割る時に殻を入れてしまう回数もぐっと減った。


「よし!帽子もちゃんと被ったし、鍵も閉めた!」

怜が結ってくれた編み込みのハーフアップの上から帽子を被ると、美寧は足取り軽く藤波家を後にした。


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