耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
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「れいちゃん、ごちそうさまでした。すごくお腹いっぱい……」

【すし政】を出て、怜に手を引かれ細い路地を歩く。怜の美寧と繋ぐ手と逆側には、大小様々なショッピングバッグがぶら下げられている。

店に入った時には薄墨色をしていた街は、今はもう宵闇に包まれている。
とはいえ、都会のネオンは明るく、足元が見えないということはない。
街の喧騒から少し距離を置いた通りを、二人はゆっくりと駅の方に向かっていた。



(こんなにたくさんお買い物したの、初めて……)

膝の下で緑の裾が揺れる。美寧は繋がれた手と反対の手を自分の首の下に持っていくと、鎖骨と鎖骨の間にあるそれ(・・)をそっと撫でた。
指先に触れるその感触は、美寧に数時間前のことを思い出させる。



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迎えの車に乗った涼香に手を振り、彼女が乗った車が他の車に紛れて見えなくなるまで見送っていた美寧。彼女の斜め上から低く静かな声が降ってきた。

「ミネ———」

斜め上から降ってきた声に恐る恐る顔を上げると、いつもと変わらぬ涼しげな瞳が見下ろしている。

「行きましょうか」と声をかけられ、「えっ」と口にした時は既に怜に手を取られた後で、歩き出した怜に手を引かれるようにして歩き出す。

(どこに行くの?)

怜の後頭部を見上げながら美寧は思っていた。



「えっ、ここ……」

怜に手を引かれて着いたのは、さっきまでいた百貨店(デパート)。涼香と通った道を辿る形で戻ってきたことになる。

「お腹が減ってたり疲れたりしてませんか?」

百貨店の自動ドアをくぐる直前にそう訊ねられ、美寧はよく分からないまま首を左右に振った。

「さっき涼香先生とお茶したばっかりだから、お腹もすいてないし疲れてもないよ?」

「そうですか。じゃあこのまま行きましょう」

どこに、とミネが訊こうとしたちょうどその時、自動ドアが開いた。

「ミネ」

声と同時に肩を抱き寄せられる。「あ、」と口にした時には、すぐ脇を二人組の女性客が通り過ぎていた。怜が気付いてくれなければぶつかっていただろう。

「ありがとう、れいちゃん」

斜めに見上げながら言うと、怜は薄く微笑んで頷いてくれた。
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