耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「着てみませんか?」

怜にそう勧められて、うっかり断ることが出来なかったくらいには、その服が気に入っていた。たぶんこういうのを”ひとめぼれ”というのだろう。

店員に訊き、マネキンが着ているものと同じスカートを出してもらう。試着室で着替える。ついでだからと、上に着せてあったザックリとした白いニットも着てみることになった。


着替え終わって試着室のカーテンを開けた時、目の前にいた怜が軽く目を見張った。

「どう……かな?」

「やっぱり———とてもよく似合っています」

「……ありがとう」

褒められて嬉しいけれど何だか照れ臭い。美寧は「えへへ」と頬を染めた。

たまには自分のお洒落にお金を使うのも悪くない。こんな時の為にラプワールでアルバイトをしたお金があるのだ。

普段の生活にかかるお金は、ほとんど怜が払っている。
世間知らずの自分にだって、生活するのにお金がかかることくらい分かる。

美寧のアルバイト代では足りないかもしれないけれど、少しくらいは役に立てるかも。そう思って初めて貰ったアルバイト代をそっくりそのまま怜に渡そうとした———が、断られた。

『それはミネが自分に必要なものを買う時に使ってください』

怜にそう言われたけれど、美寧だって一度断られたくらいでは引き下がれない。
何度か『でも、やっぱり』と食い下がってみたけれど、少し眉を下げて困った顔で首を左右にしか振ってくれなかった。

『ミネに必要なもの』と言われても、怜の家とラプワールの往復、そして近所の公園にスケッチに行くくらいしかしない美寧に、そんなにお金の使い道はない。
料理見習いを始めた時は怜がエプロンを買ってくれたし、普段着は涼香が持って来てくれるお下がりなどで事足りる。

結局美寧のアルバイト代は、スケッチブックと色鉛筆を買っただけで、あとはまるまる残っているのだ。

「じゃあ着替えてくるね」

そう言って試着室に戻ろうとした美寧を、怜が引き留めた。
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