耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「そのままで大丈夫です」

「え?」

きょとんとした美寧に店員が近付いてきて、「失礼いたします」と言いながらタグを外していく。それからその店員は、美寧が脱いだ服を手早く畳み、ブランドロゴの入った紙袋に入れて、なぜか美寧ではなく怜に渡した。美寧はその一連の動作を、ぽかんとした顔のまま見ていた。

「行きましょうか」

怜に手を引かれ、店の前で「ありがとうございました」ときれいなお辞儀をする店員に見送られながら、またエスカレーターに乗った。
エスカレーターに乗って立ち止まった時、美寧からやっと声が出た。

「お、おかね!お金まだ払ってないよっ!」

焦って言うと、サラリと「俺がさっき払っておいたので大丈夫です」と返ってきた。

「え、なんで!?」

思わず驚いた声を上げると、隣に立つ怜がチラリと美寧を見降ろした。

「だって、ずるいでしょう?」

「ずるい?」

なにがずるいのだろう。服のお金を怜に払ってほしいと厚かましく頼んだのならともかく———
『意味が分からない』と素直に顔に出てる美寧に、怜は少し大げさに「はぁ~」とため息をついた。

「ユズキばっかりミネの買い物をして」

「え、」

「俺だってミネを喜ばせたいのです」

そう言った後、独り言のように怜は続ける。

「いくら同性同士とはいえ、他の人の手で綺麗になるのはすこし癪だな」

ぽかんと口を開けた美寧の隣で、怜は「でもミネ笑顔が見れたので良しとするか」だの「もっと早く俺が連れて来れたら……」などと言っている。独り言のようだ。

美寧は、初めてのマスカラで彩られた睫毛をパタパタと(またた)かせた。

「あの……れいちゃん?」

そう声をかけた時、怜が言った。

「正直、心配になります」

何が心配なのだろう。さっきから彼が言っていることの半分も分からなくて、美寧は少し不安になってくる。
そんなことを考えていると、怜が少し身をかがめ美寧の顔を覗き込んだ。

「何もしなくても可愛すぎるくらいなのに、こんなに綺麗になって………」

怜の瞳がスッと細められた。

「今のあなたを———」

美寧の耳元に顔を寄せると、彼女だけに聞こえる声で囁いた。

「———他の誰にも見せたくない」

耳の端を唇がかすめていった。


< 62 / 427 >

この作品をシェア

pagetop