耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
美寧の前までやってくると、マスターは垂れ気味の二重の瞳を細め優しげな笑みを浮かべた。

「ちょうど良かった」

何がちょうど良かったのだろう。そう思いながら小首を傾げたが、その答えはすぐに明かされた。

「ちょうど今、美寧の家に行こうとしてたところだ」

「うちに?」

「ああ。これを渡そうと思って」

そう言ってマスターは、手に持っていた小ぶりなトートバッグを軽く持ち上げてみせる。

「これ。今日のデザートにでも、と思ってな」

ポーチのチャックを開きながらマスターが中身を見せてくれた。内側が銀色になっていることから保冷バックなのだと分かる。中には蓋の締まったガラス瓶が四つ入っていた。

「あっ、これ……」

「この前は差し入れありがとうな。塩レモンのレアチーズムース、すごく美味(うま)かった。娘も喜んでいたよ、つわり中でもサッパリして食べやすかったって」

「本当ですか?良かった」

ホッとした笑顔を浮かべた美寧に、マスターは頷いて見せる。

「容器返すの、遅くなって悪かったな」

「いえ、そんな……返していただかなくても大丈夫だったんですよ?」

『容器ごと差し上げて大丈夫ですよ』と怜が言っていた。

「容器を返すことよりも、まぁ、お裾分けだ」

「お裾分け?」

「ああ。杏奈(あんな)が、――娘が家で成ったあんずで毎年ジャムやシロップ漬けを作るんだ。それで今年は豊作だったらしくてな。シロップ漬けを沢山貰ったから、それを入れてデザートにしてみたんだが、」

「デザート!!」

話している途中で声を上げて目を輝かせた美寧に、マスターは「ははっ」と笑う。
マスターの作る洋食は絶品なのだが、たまに作るスイーツもとても美味しいのだ。
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