耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
その声の主は、息を切らせて駆け寄ると、何も言わず座っている女性をぎゅっと抱きしめた。

「しゅ、しゅう、」

「無事で良かった………」

はぁはぁと肩で息をつきながら、絞り出すように出した声。
息が整うまでの間、彼はしばらく彼女のことを抱きしめていた。

「『気持ち悪くて動けない』って連絡貰って、俺がどれだけ心配したか……」

「ごめんなさい……」

しゅんと肩を下げた彼女が謝ったあと、もう一度「本当に無事で良かった……」と大きな息と一緒に吐き出した男性は、やっと彼女を抱きしめていた腕を外した。

「あの、(しゅう)ちゃん……この方たちに助けていただいたの。飲み物まで頂いちゃって……おかげでずいぶん楽になったんだよ?」

「そうだったんだ―――妻を助けていただき、ありがとうございました」

そう言って怜と美寧に頭を下げた男性。

「是非、今度お礼をさせてください」

そう言うと、男性は着ているジャケットから名刺を差し出した。

「お礼なんて構いませんよ。大したことはしておりません。なにより、奥様がご無事で良かったです」

怜は出された名刺を受け取らず、「ご主人も来られたことですし、俺たちはこれで」と言って軽く会釈し、美寧に目で「行きましょうか」と合図を送る。
美寧もそれに頷くと、女性に「元気な赤ちゃん産んでください」と告げ、アンジュの頭を最後にひと撫でしてから怜とその場をあとにした。


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