耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
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しまった。完全に迷子だ。

人気のない大学構内で、美寧は焦っていた。

手に握りしめているのは、真新しい携帯電話。さっき試しにメッセージを送ってみたが返事はまだない。それもそうだろう。送った相手は仕事中なのだから。

このスマートフォンは、先月怜が美寧にプレゼントしてくれたものだ。『ちゃんと(・・・・)恋人になった記念に』———と。

美寧は最初、『無くても困らないから』と断ったのだけれど、眉を少し下げた怜に『俺がミネといつでも連絡を取れるようにしたいんです』と言われてしまったら、頷くことしか出来なかった。


怜とは正式な“恋人”として一緒に過ごすようになったけれど、彼の態度が激変したということはない。相変わらず丁寧口調のままだし、色々とそういうこと(・・・・・・)に慣れない美寧に無理強いをすることもない。

ただ、これまでよりも少しだけ強引に美寧を甘やかすようになった。
このスマホはそのうちの一つだ。


(ちょうどお昼前だから、れいちゃんと一緒にお弁当と頂いたデザートを食べたらいいと思ったんだけど……)

買ってもらったスマホのおかげで、電車には難なく乗れた。切符を買わなくても、スマホをかざすだけで電車に乗れるとは、なんてすごいんだろう。
美寧が乗る駅は、商店街を抜けたところにあるので迷うことはない。降りる駅も大学名が着いているし乗り換えもない。乗っている二十分間車窓からの景色を楽しみながら、名案だったと心密かに美寧は満足していた。

けれど―――


(仕方ないよね、思い付きで来ちゃったんだもん……)

大学というものがこんなに広いものだとは想像もしていなかった。大学まで行けばすぐに怜が働く【理工学部応用生物学科】に行けるものだと簡単に考えていたのだ。

(もう少し探してみて、見つからなかったら今日は諦めよう……)

はぁっ、とため息をついて肩を落としたその時———

「どうかしたの?」

背中から声が掛けられた。


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