耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「…ネ、……ミネ?」

「え?…あっ、……ごめんなさい」

怜に声を掛けられ、美寧はハッと我に返った。
いつのまにか怜は食器を洗い終えている。ボウルを拭きながら、いつのまにか思考の中に入り込んでいたようだ。

「疲れましたか?もう少しで出来上がりますから、それまでソファーで休んでいてくれて良いのですよ?」

そう言われて、美寧は左右に首を振る。

「ううん、疲れてないよ。大丈夫。ちょっと考え事してただけだから」

「考え事、ですか?」

片付けの手を止めた怜が、じっと見下ろしてくる。
その表情に変化はないが、自分のことを気にかけてくれる時の仕草だと、美寧はもう十分すぎるほど分かっていた。

「大したことじゃないよ?れいちゃんは、これまではずっと一人でお料理してたのかな、って」

少し違うが、そうでも言っておかないと怜が心配するかもしれない。
そう思って、当たり障りのない言葉に置き換えてみた。

「そうですね……このキッチンに俺以外の誰が立つのは久しぶりです」

「そう、なんだ……おつ、……お友達、とかは?涼香先生とかナギさんとか……一緒にお料理しなかったの?」

「ユズキはまずキッチンには入って来ませんね。来た時はリビングに直行します。料理は得意ではないそうですし、そもそも他人の家で料理をしたいとも思えない、と」

実に涼香らしい———と、美寧は素直に頷く。

「ああでも、ナギとは少し一緒に料理したことがありますよ」

「そうなの?」

「ええ。大学時代にそれぞれつまみを持ち寄ってよくここで飲んでいました。ですが、料理が得意なナギは大抵自分のキッチンで作ってきて、仕上げが必要なものをここで少し温めたり盛り付けたりする程度でしたね。ですから、そこまで“一緒に料理をした”という感じではありませんね」

実に高柳らしい———と、美寧はまた頷いた。

「あとはこの前みたいにたこ焼きとか鍋みたいに、準備が簡単なものが多かったですしね」と言い添えた怜は、じっと美寧を見つめた後、「で———」と言った。

「本当は何が気になったのですか?」

「え?」
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