耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「訊きたいことは別にあるのではないですか?」

「っ、」

完全にバレていた。美寧が考えていたことが別のことだということも。それを訊かなかったことも。

息を呑んだ美寧に怜が言う。

「それとも俺には言えないこと?」

シンクの前に並んで立っているから元々距離は近い。けれど、更に半歩距離を詰められて、見上げる美寧の背が少し反り返った。

言葉に出して問い(ただ)されているわけではないのに、怜の瞳は美寧に訴えかけてくる。本当のことを言って欲しい———と。
美寧は躊躇(ためら)いながら口を開いた。

「………れいちゃんは、今まで………お付き合いした人とここでお料理しなかったの?」

「え?」

怜が目を見張った。

「涼香先生が言ってたの……れいちゃんはこの家にお付き合いしていた人を入れたことは無いと思うって。……だけど、本当にそうなのかな、本当ならどうしてかな、って思って………」

今度息を呑むのは怜の番だった。
まさかそんなことを訊かれるとは思いも寄らなかった。

そもそも、大学時代からの友人である久住涼香に、この家に恋人を上げたことがないと気付かれていたとは。
あんなに普段は思ったことをズバズバと口にする女友達(ユズキ)が、これまでそれを口にしなかった。それは、怜にとって触れて欲しくない心の奥にその理由がある、ということを彼女は分かっているということだ。

(これだからユズキは………)

内心「流石だな」と尊敬の入り混じった驚きを抱きつつ、ふぅーっと長い息をつく。
すると、目の前の美寧が焦ったように言った。

「あの、……言いたくないなら大丈夫だよ?すごく気になって仕方ないとかじゃないの。どうしてかな、ってちょっと思ったくらいで、」

「ここを———このキッチンを、家族以外の誰かに触られるのは嫌だったからかもしれません」

「え?」
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