偽りの花婿は花嫁に真の愛を誓う
「なんだ?」

私の肩を抱き、指先でくるくると髪の毛を弄びながら、彼はちゅっと私の額に口付けを落とした。

「働きに出てもいいでしょうか……?」

おそるおそる、彼の顔をうかがう。
けれど彼はなにも言わない。

「……ダメだ」

しばらくして彼がようやく、しかも興味がなさそうに言う。

「なんで……!」

反対されるのなんて織り込み済み、しつこく食い下がった。

「別に、スーパーのレジ打ちとかじゃないから、御津川さんの評価を落とすものじゃないし!」

「そんなことは問題じゃない」

「夏原社長が戻ってこい、って。
私は、私の可能性を試したい!」

「なおさらダメだな」

無表情に彼が立ち上がる。
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