偽りの花婿は花嫁に真の愛を誓う
そのタイミングでいつ頼んだのか、入っていたスタッフが私の前にカクテルを置く。

「アプリコットフィズって度数は低めのカクテルだ。
別に、酔わせてどうこうとか考えてない」

「……ありがとうございます」

御津川氏がグラスに口を付けるので、私もカクテルを口に運んだ。
甘いそれは、少しだけ私の緊張を解いた。

「確認、したいのですが。
あなたはあの、MITSUGAWAの御津川社長で間違いないんですよね」

MITSUGAWAはもはや、日本の重要施設の、ほとんどの警備をしていると言っても過言ではない警備会社だ。
日本だけじゃない、世界あちこちでも展開している。
警察にも太いパイプを持っており、いまの警視総監は前社長の弟だったはず。
前社長から慧護氏へ社長の座が譲り渡されたのは一昨年の話だ。

グラスをテーブルの上へ戻し、姿勢を正す。
御津川氏は左腕をソファーに預け、水割りを舐めるように飲んでいた。

「間違いないな」
< 34 / 182 >

この作品をシェア

pagetop