偽りの花婿は花嫁に真の愛を誓う
「どうして今日は、身分を隠してまで花婿の替え玉なんて」

「ただの気まぐれ?」

彼がグラスを揺らし、氷がカランと音を立てる。

「たまたま、本当にたまたま、詐欺で捕まったあの男と今日、挙式予定の女がいるって知ったんだ。
それで、どんな間抜けか顔を見に来た」

くいっ、とグラスの中身を彼が口に含む。

「思ったとおり、間抜けな女でさぞかしおかしかったでしょうね」

カモにされているなんて知らずに、この日を心待ちにしていた。
自分でも、なんて滑稽なんだと思う。

「そうだな。
でも同時に、どれだけこの女が今日を楽しみにしてたのか思ったら、可哀想になった。
だから、せめて式くらい挙げさせてやろうと思ったんだ」

ふっ、と唇を緩め、彼はグラスをテーブルの上に戻した。
同情、されていたのがなんか悔しい。
けれど、それで助かったのも事実。

「ま、それだけじゃないけどな」

御津川氏が頷き、砺波さんが私の前に紙を置く。
< 35 / 182 >

この作品をシェア

pagetop