偽りの花婿は花嫁に真の愛を誓う
私を置いて、御津川氏は店を出ていった。
ひとり取り残されて途方に暮れてしまう。
私は、美容室、特に美容師が苦手なのだ。
はっきり言ってなにを話していいのかわからない。
それでいままで、千円カットの店で毛先だけ切ってもらっていたくらいだ。

「じゃあまず、切っていきますねー」

話しかけられたらどうしよう、なんて私の心配とは反対に、彼は必要最低限しか話さなかった。
いつもセレブを相手にしているとそうなるのだろうか。
おかげで、緊張せずに済んだ。

「そろそろ終わったか?」

「はい、ちょうど」

再び御津川氏が店に来たのは、美容師が最終チェックを終えた頃だった。

「うん、前よりずっとよくなった」

髪を少し明るく染め、緩くAラインパーマをあてた私は、年相応に見える。

「李亜は元がいいんだから、もっと磨かないとダメだ。
これからは俺がガンガン磨いていく」
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